様々な影響を受ける胎児

人間の脳細胞は胎児期に盛んに細胞分裂を行うため、この頃の母親の栄養状態が生まれてくる子どもの脳の形成にとって大変重要であると言われています。

例えばミネラルは脳の神経細胞の情報伝達に重要な役割を果たしており、様々な酵素も神経細胞の活動に働いているため胎児期、乳児期に栄養失調になると、知能の遅れがみられると言われています。人間の脳は出生後1年で約80%が完成し、3歳までに神経回路が決定してしまうので一度出来上がった神経回路は別の回路には組替えられないと言われています。そのため3歳までの栄養は脳の形成にとって最も重要であることがわかると思います。

脳は他の組織に比べると脂肪が約60%と多く、そのため良質の脂質を摂ることが脳にとって重要となってきます。母乳中には質の良い脂肪酸、脳を構成するアミノ酸であるグルタミン酸、アスパラギン酸が含まれているので、授乳期には母乳を与えることが脳の形成に関しても良いことがわかります。

また、栄養だけでなく胎児に供給される酸素量も知能の発達に影響を与えます。臍の緒の圧迫、臍の緒が首に巻きつくこと以外にも車の排気ガス、受動喫煙を含むタバコの煙、ストーブ、湯沸し器の不完全燃焼など母体が一酸化炭素、窒素化合物の影響を受けた場合にも、胎児への酸素不足はおこっています。

特に大変危険であるのが妊婦の喫煙です。ニコチンの作用によって臍の緒、胎児の血管が収縮するため血流量が減少してしまいます。そうすると、胎児にいきわたる栄養も酸素も減少してしまいます。さらに喫煙によって高濃度の一酸化炭素が胎児の血液に入ることで、酸欠状態をひきおこしてしまいます。実際に、妊振中に喫煙し、その喫煙本数が多い程生まれてくる子どもの知能が低いというデータも報告されています。他にも喫煙妊婦においては流産や低体重児が生まれるリスクが高くなるとも言われています。また妊婦の飲酒によっても胎児の栄養不足、発達障害、知能障害が引き起こされる恐れがあります。授乳中における飲酒も母乳を通じてアルコールが乳児に入ってしまうので、危険です。

また胎児は水銀や鉛などの有害金属の影響を直接受けます。これは胎児は神経細胞が未完成で、バリア機能をもつ血液脳関門が未成熟なためで特に中枢神経への影響が心配されます。

有機水銀はほぼ100%吸収され、脳に移行すると脳神経を侵すこともあります。なるべく水銀を含む恐れのあるマグロなどの大型回遊魚を避けることが望ましいです。また農薬などは脂に溶けやすいので動物性脂肪を多く含むもの(牛乳、肉の脂、バター、ラード等)はなるべく避けることを心がけたいです。これらの他に、食品添加物や洗剤などの化学物質にも注意が必要です。

私たちの身の周りにはたくさんの有害化学物質があふれており、胎児、乳児は成人よりもこれらの影響を受け易いため、厳重な注意が必要です。胎児として母親の体内にいる時からすでに母親を通じて様々な化学物質にさらされているということを心に留めておく必要があります。そして妊婦や乳幼児を持つ母親は子どもへの化学物質の害を最小限に止めるように生活自体も見直していくことも必要ではないでしょうか。