私にとって「足」というのは、まるでマジックボックスのように、歩行サイクルのなかで変幻自在にかたちを変えるたいへん興味深いパーツです。一般の方々は、そのような見方をされることは少ないと思いますが、同業の先生方であれば、私と似かよった感想をお持ちなのではないでしょうか。というのも、私は7年間カイロプラクティックの学院で講師をしてきましたが、足部の問題が具体的にどのようなメカニズムで全身へ影響を及ぼすか、またそのアプローチについても苦手とする方が多かったようです。

具体的には、何度矯正しても繰り返す足根骨の変位(例えば立方骨の下方変位など)についての疑問や、足部に存在するフィクセーションと変形を混同されているのがよく見られました。

前者について一例を挙げると、歩行サイクルの立脚中期から推進期にかけて、足部の外側に体重がかかる前足外反変形や、第一中足骨の可動域が制限された第一レイの底屈変形が存在すれば、毎日歩くなかで立方骨の下方変位が繰り返されるのは当然といえるでしょう。

このようなケースでは、立方骨に関連する筋の弱化が常に検出されることになります。筋力を正常化させる目的で、アジャストメントや反射、内蔵機能の正常化(とても大切ですが) にそのアプローチを求めた場合、一時的に筋力は回復しますが、ベットから降りてそのまわりを一周してもらい、再度筋力を調べるとまた弱化しています。

治療では変位した骨を矯正するだけでなく、どのような理由で変位したのか、その原因を明らかにすることが重要となります。足部のフィクセーション・サブラクセーションを検出しアジャストメントした結果、筋肉の促通・抑制が一時的に回復していることは、日常の臨床でよく経験します。そして神経学的統合不全を改善する為の一助となることも知っています。しかし、アジャストメントをする以前にもっと重要な問題があると思います。 それは、サブラクセーションや、足部の異常な関節運動が、どのようにして生じたのか、その病的メカニズムをまず調べること、生体力学的に理解することが大切です。足のバイオメカニクスをはじめて勉強される方は、このような思考過程を経て改めて足部を見直すと、意外な発見の連続にきっと驚かれることでしょう。

話が脱線したので元に戻しましょう。後者の一例(足部に存在するフィクセーションと変形を混同する問題)として次のような組み合わせを挙げてみます。「ニュートラルポジションにおける踵骨内反位でのフィクセーション」と「後足部内反変形(Rearfoot Varus Deformity)」です。 

モーションパルペーションによって踵骨内反位でのフィクセーションが確認され、踵骨の可動性が改善されたとしてもひと安心という訳にはきません。まだ僅かな角度の後足部内反が残っている可能性があるからです。つまり踵立方関節がロックされた位置での前足部と後足部の状態を確認する必要があるのです。歩行時におけるosseous locking mechnismが正常に機能しているか知ることは重要です。しかし、フィクセーションが存在し、その改善を試みることは徒労ではありません。可動性が生じたことにより距骨下回内範囲が僅かながら減少し、縦アーチ・横アーチの改善や距骨下回内の代償を受けていた下肢の内旋・前傾した骨盤に対して、少なからず改善の効果がみられることもあるからです。

またそれとは逆に、距骨下関節が過剰に回内されると、脛骨・大腿骨の内旋が起こり、大腿骨骨頭の後方変位により骨盤は前傾し腰椎前彎は増強する可能性が生じます。腰椎前彎の代償は胸椎の過剰な後彎、また頭部が前方へ位置されることも容易に考えられます。足部に距骨下関節が過剰に回内される原因が存在していると、脊柱・骨盤のこのようなアライメントを改善させるアプローチを行ったとしても、またもとに戻る可能性があるともいえます。

ある文献によると、踵骨内反位でのフィクセーションと混同されやすいこの後足部内反変形は、O脚を呈する脛骨の彎曲つまり脛非内反を伴うとされ、さらに疫学的研究では、脛非内反と距骨下関節に4°以上の角度が98.3%の方にみられたといいます。(理想とされる角度は4°とされています)残念なことに踵骨内反位でのフィクセーションについては触れられていませんが、このフィクセーションを改善させることにより98.3%の数字は実際のところもっと低い数になると考えています。というのも女性誌などでよく見かけるO脚体操のなかに、踵骨を外反方向に押圧させる体操が紹介されていることがあります。これはまさに踵骨内反位でのフィクセーションを改善させる方向と一致しており、O脚の主な原因がこの問題であれば改善の効果が得られるのもうなづけます。

当院では、足部のモーションパルペーションや諸検査の後、先の踵立方関節がロックされた位置で、前足部と後足部の状態が理想的な位置関係であれば、オーソティックス装着の必要性はないのでお勧めすることはありません。理想的な位置関係でない場合でも、Deformityではなくフィクセーションであればオーソティックスを勧めることはありません。ただスポーツをされている等の理由で患者さんが希望される場合は、オリジナルの足底板を製作や、フットレベラー社のオーソティックスをご紹介することもあります。

つまり当院でオーソティックスを必要と考えるのは、距骨頭および距骨頸の骨性の変異が原因となり、立方骨との関節面に解剖学的な問題があると示唆されるケースに限っています。別の言いかたをしますと、胎生期あるいは骨化形成の成長期の子供の頃に後天的に生じた不可逆的な問題があると考えられる際に適用します。

例えば、「立方骨の踵骨突起が欠如し、対応する踵骨関節面も平坦な形状」といった具合です。この場合、前足部は立脚中期に外側部へと力がかかり、代償性の距骨下回外が立脚中期後半にはじまるのです。もちろん関節連鎖により、その影響は足部だけで終わるものではありません。

臨床でこれらDeformityの問題を見落としやすい最大の理由は、足部をどの角度から見ても関節面の変異は確認できないことです。だから非荷重位で検査し、荷重位で再度、横足根関節の骨性閉錠機構(osseous locking mechnism)が働く位置での前足部と後足部の関係を再現させる必要があるのです。しかしバイオメカニクスの視点から足部を観察し動態触診を事前に行えば、このようなポジションの検査を必要とするかどうかの判断はあらかじめつきます。

写真左上の患者さんのケースを考えますと、横足根関節の骨性閉錠機構が働いたとき、後足部底面に対して内反位にある前足部を接地するための代償が立位になると起こります。このようなメカニズムを知らないと運動療法やテーピングを指導するといった的外れな施術をすることになるので注意深い観察・検査が必要です。足部のアーチを構成する主な筋へのアプローチや運動療法で解決できる問題ではないことをご理解いただけるでしょうか。

15年ほど前に読了したカパンディには、平坦足の主な原因に長腓骨筋の弱化と書かれてます。懐かしい当たり前の話ですね。問題はどのようなメカニズムが足部に働き長腓骨筋が無能化してしまうかです。ひとつ興味深いパラドックスをご紹介しましょう。距骨下関節が過剰な回内をするケースでは、重力をかけることで、つまり歩くときには第一レイが安定されないため長腓骨筋が機能しないことが多いのです。アングル(筋の起始・停止部)が変化することで長腓骨筋の筋力が抑制されるのです。にもかかわらず、重力のかからない非荷重位では、この同じ患者さんの長腓骨筋の筋力検査をすると筋力は正常となることが多いのです。足のアーチに主要な働きをする筋に対しての運動療法であっても、距骨下で過剰な回内がおこる原因がDeformityであれば、この問題を先に解決しないと患者さんに無用の努力を強いることになりかねないのです。また、このような根本的な問題を放置し、病因とは関係のない施術を繰り返す行為のほうが、足底板(9800円-AOL社)よりよほど高くつき、無用な時間の浪費と、金銭の負担を患者さんにかけることになります。

足のアーチを構成する主要な筋がただ弱っているだけで現れる扁平足などにはオーソティックスを装着する必要はありません。成長期の子供さんにこちらで指導している「楽しい足の体操」(ドイツの幼稚園ではお馴染の)を同じようにしていただくだけで充分です。(「骨化形成」という視点で足の骨を考えると、2歳半から6歳くらいまでの子供さんの年齢が一番大事な時期である為、幼稚園で講演を行うときはこの体操を必ず紹介しています。)

さて、第一レイの底屈変形の場合は、ランガ−社に製作を依頼しています。依頼の際は、正確に鑑別診断をした上で、慎重にキャスティングする必要があります。この場合は体重をかけないで行うキャスティング法を選択します。足部の病態にある程度習熟すると視診だけでもこのケースは確定できるようになります。キャスティングは第一レイの底屈の程度を確認するくらいです。

しかし、足部の機能について理解が浅い場合や、また検査に対しても不慣れな方は、第一レイの底屈変形を前足部外反変形(Forefoot Valgus Deformity)と間違えることがあり要注意ですね。ランガー社のオーソティックスは、施術者サイドの診断が正確であれば素晴らしいものとなります。

ヘルビング徴候と呼ばれるアキレス腱の内側への彎曲が確認できる前足部内反変形(Forefoot Varus Deformity)(左写真上)、前足部外反変形(Forefoot Valgus Deformity)、後足部内反変形(Rearfoot Varus Deformity)のケースでは、主にAOL社のパーツ(左写真下)を用いその場で製作して患者さんにお渡ししています。この場合ニュートラルポジションを維持し、体重をかけた座位でのキャスティング法を採用しています。製作中は代償を受けた部の改善を、目で確認しながら行えるのでとても分かりやすいです。また製作過程において、筋トーヌスや筋力テストの結果に変化があり、多くの患者さんが驚かれます。

余談ですが、O脚矯正を目的に、踵の外側が高くなったインソールを購入されて着用を続けた結果、「ますます扁平足がひどくなった」と相談に訪れる方が絶えません。 案の定、下腿部分が捻じれ(内旋)、外へ余計に倒れている(広がっている)、というおまけつきの状態です。左の写真の方が、同じインソールをつけたらどのようになるのか、容易に想像がつくと思います。インソール・オーソティックスを自分で選び購入するのは危険です。眼科医の診察もなしに、コンタクトレンズを装着するのと同じです。足部のバイオメカニクスに詳しい先生の判断を仰いでから購入しましょう。

現在、ニュートラルポジションについての見解や、体重の負荷をかけないキャスティング法の是非については様々な研究レポートがアメリカから報告されています。しかしそれ以前の問題として、足部のバイオメカニクスの理解が充分であるかどうかのほうが必要不可欠といえます。荷重位・非荷重位を問題にする前に、バイオメカニクスの知識を充分に備えて問題意識を持って、足部を触診・動態触診し、踵立方関節がロックされた位置(距骨下関節を中立位)での足部を観察することです。以上の検査は非荷重位で行いますが、荷重位でさらにニュートラルポジションを再現し確認すればよいでしょう。Deformityが存在していれば、特有の歩行モーションが現れますからこれも見逃さないようにしたいものです。以上の理由から、当院ではキャスティングの荷重位・非荷重位の優劣を競う議論はそれほど重要な問題ではないと考えています。

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