当院で主に行う筋力検査は、まず患者さんが検査する筋肉に力を入れます。

検者(先生)は、これに対抗する力を加えます。患者さんが力を入れ始めた時の等尺性収縮(筋が収縮しても、筋の長さは変化しない状態)は、筋が短縮を始めると等張性収縮(筋の張力は変化せずに収縮する状態)にかわります。その瞬間に、検査している筋肉に十分な力が入っているかどうかを診ます。

検査では、筋が抑制を受けているか、筋緊張が亢進していないかを診る訳ですが、目的は他の検査結果と照らし合わせ、病状の原因を確定し、最も適切な治療方法を選択することにあります。

筋力が抑制を受けるメカニズムの一例として次のようなものがあります。検査する筋肉が付着している関節に、可動性の亢進や歪みなどがあるとします。その関節の感覚器が「これ以上、筋肉が収縮して私(関節)を張っていかれると、負担がかかって私(関節)が被害を破るから、力を入れにくくしますよ」とγ運動神経に抑制の信号を送ります。これにより筋紡錘は興奮しにくくなり、同じ筋のα運動神経を十分に興奮させることができなくなります。そのため、本来正常な力が入るはずの筋に、充分な力が入り難くなると考えられています。(例外もあります)

筋力が抑制を受けるのは、勿論これだけでは在りません。相反神経支配による拮抗筋の作用や、打撲などによる筋自体の問題もあります。他の検査で障害の特定をしていきますが、多くは関節の問題に起因することが多いようです。

このようにカイロプラクティックで用いられる筋力テストは、病的な疾患により筋萎縮や廃用が認められる筋に対し評価する方法や、神経根症状を呈する患者さんに対する神経検査とは、手順やテストを行う際の注意点が異なります。 

写真は、左の大腿筋膜張筋の筋力検査を行っているところです。患者さんは力が入り難いと、骨盤を少し持ち上げて他の筋肉(中殿筋)の協力を得て抵抗しようとします。これはトリックモーションといって、テストしている筋に力が入り難かったりすると、体位を少し変えて他の筋の協力を得て力を入れようとします。検者には、協力筋、検査筋以外の筋の補償作用により充分な力が加わっているのですが、このケースでは正しいテスト肢位に戻すとストンと力が入らなくなります。

* 上の写真でモデル着用のレオタードは、治療プロセス及び身体の動き等を分かりやすく見せるためであり、実際の治療で着用することはありません。当院では、多くのカイロ専門のオフィス同様、患者さん用のガウン(後開き)に着替えていただきます。着衣の上からでは、正確な背骨・骨盤の検査及び治療が困難となります。


以下は、私がカイロプラクティック学院の講師時代、セミナー用のテキストとして作成した『不良姿勢から考えられる主な筋異常』の序章に挿入した内容です。これは15年ほど前のGeorge Goodheart講演の一部ですが、このサイトで紹介している治療プロせス「筋力テスト」に関連することから、ご紹介します。先生方でセミナーを受けられた方には懐かしく感じられることでしょう。

キネシオロジーでは、“Body Language”いわゆる「体の訴え」という言葉をよく使います。 我々はその訴えを聞きとり、一方向からの発信で終止することなく双方向的に応えていかなければなりません。人はそれぞれ姿勢も異なり動作も違います。そこから発せられる無言のメッセージに対して、我々は注意深い観察と洞察を持って耳を傾けなければいけません。検査を習熟することで、その聞き取り方が分るようになると、体が現在どのようなメッセージをドクターに訴えているのかが明らかになってきます。

例えば、筋カテストをするとき、ある患者さんはいつも息を吸い込んだり、止めたり、知らず知らずのうちに、そのようなことをしている時があります。それも体の訴えの重要な一つです。ですから、筋カテストの時に、ある呼吸の過程において止めたり、吐いたりそれを自然にする人がいると、「私はCranial Faultsに苦しめられている」ということを直訴していることになります。次に耳の傾け方が判ってきても、対話が出来なけれぱなりません。患者さんの訴えを「筋カテスト」という道具を用いて尋ねていくわけです。

それは、あたかも医師が聴診器を使って検査するのと同じで、カイロプラクターにとって筋カテストは大変重要な検査といえます。聴診器は非常に有効なものですが、聴覚を通してのみ有効であり、限られたものです。しかし筋カテストをうまく用いたときは、ちょうど正確な計りのような役割を果たし、マイクロメーターのようにミクロの世界を計れるほど正確なものなのです。このような精密器械でも使い方を誤ると、大きな誤差を引き起こします。

キネシオロジーの第一歩として、どうしたら正確なデーターを筋カテストによって引き出せるかが問題となります。キネシオロジーがあなたにとって重要な診断データを提供できるかどうかは、正しい筋カテストが出来るかどうかに常にかかっています。

George Goodheartは筋カテストは科学であり、芸術だと考えています。「Science & Art of Musle Testing」

まず、この科学というものを頭にたたき込む必要があります。というのは、正しい解剖学的知識なしでは、正しい筋カテストを用いることは不可能であるからです。科学的、生理学的知識がしっかり頭の中に入っていて、初めて正しい筋カテストの方向・検者が加える力の方向が引き出せるのです。方向が変れば検者が一定の力で筋カテストをしたとしても、ペクトルが変り加わる力が強くなったり弱くなったりします。

次に筋カテストの際、テストする筋をいかに他の協力筋から分離させるかが間題となります。例えば、肩甲挙筋の筋力検査で十分に肩甲骨を下げないで検査すると、共同筋の菱形筋が働いてしまい、エラーがでます。テストの時の患者の位置が、その筋肉を孤立させる上で重要となってきます。普通1つの筋肉をテストしようとしても、陰に必ず協力筋が働いています。もしテストしようとしている筋肉が弱い場合、患者さんは無意識に他の協力筋を引き入れて代償しようとします。その為には、検者の間接手での十分な安定と、固定筋がしっかりしていることが必要となってきます。我々の正しい筋カテストの成果は、どうしたら他の筋を除外できるかにかかってきます。

その次に重要なのは、テストする検者が先入観を持たないということが重要です。例えぱ、この筋は強いはずだとか、弱いだろうと期待して筋カテストをしないことです。期待して行うことにより検者が無意識に力をより強く入れたり、力の方向を変えたりして、その期待どおりの結果をつくり出してしまうことがあるからです。

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