腰痛で来院される方の多くに、仙腸関節のトラブ
ルが原因となり疼痛を誘発させる問題がみられます。ここでいう問題というのは、画像や計測等の静止した状態のみで診断されたものではありません。詳しくは後ほど説明しますが、私が治療家の道を歩むきっかけとなったのも、この仙腸関節のトラブルで長年腰痛を患っていた母親の存在でした。
学生時代、私の母親は年に数回ギックリ腰を患い、苦しんでいました。その度に歩行困難な状態が続くので、私は母親の脇を抱えて病院へ付き添っていました。ところが、寝返りをするのも困難な強い疼痛が治まらないため、他の病院にもいくつも回りました。しかし、診察する医師はみんな「骨には異常ありません」と口を揃え、考えられる原因についての説明はなく、湿布をもらうだけでした。
整形外科では全くよくならなかった為、途方に暮れていた頃、知人の紹介で鍼灸や整体などの治療院へ幾つか通うことになりました。次第に身体の構造に関心がでてきた私は、鍼灸学校へ次にカイロプラクティックの学校に通うようになりました。
カイロプラクティックを学び始めて驚いたのは、母の足の長さをうつぶせの状態で見ると、左右で3〜4センチもの違いがあり、骨盤も目で見てわかるほど歪んでいたことでした。当時はまだ素人ながらも、「これでは腰が痛くなるのも当然だ!」と憤慨したことを今でも強く覚えています。
ズボンの長さが左右違う、立ったときにウエストラインのくぼみが違う、骨盤の高さが違う、足の付け根の外側(骨盤の下のほう)のでっぱりが左右違うなど、最近は骨盤が開いてきたのか大きくなってきた。などと自覚される方は骨盤の歪みが考えられることがほとんどです。
母親の足の長さの差は、解剖学的短下肢といわれるポリオ、ペルテス病、結核性股関節炎、大腿骨辷り症、骨折による短縮などにより左右の脚長差が生じたものではなく、機能的短下肢でした。
機能的短下肢の場合の多くは、双子筋、大腿方形筋、梨状筋、腸腰筋などにより、大腿骨が関節内(寛骨臼内)で引上げられることによって起こります。股関節が外旋するような生活習慣があると、大腿骨頭が上へ突き上げられることが多くあります。これら機能的短下肢の治療は、関節音がするほどの矯正など行わなくても、下肢と骨盤部を適切に優しい操作で施術することにより直ちに解消することが多いのです。
但し、骨盤(仙腸関節)がどのように歪んでいるかの判断は、簡単そうで実は難しくバイオメカニクスや解剖学の知識、また熟練した触診を要します。診断を誤りますと正反対の効果が現れますから、骨盤の矯正は充分な研鑽と熟練を積んだ先生のところでの施術をお勧めします。
施術後は、どのような原因で骨盤(仙腸関節)が歪んだ可能性があるのか、図譜や骨格模型などで詳しく説明します。というのも姿勢などの生活習慣に起因することが多いからです。再発し痛みを繰り返すのもよくありませんから、皆さん真剣なまなざしで説明を聞いて下さいます。
また女性が経験する腰痛には、それぞれ特有の機序があります。一番よく来院されるケースは妊娠期間中の骨盤輪が弛緩することによって起こる腰痛です。そのため当院でも大きなお腹の妊婦さんがよく来院されます。うつぶせは無理と思われがちですが、大きなお腹の部分がくぼみ、圧迫が加わらないように対応出来るカイロプラクティック専用のベットを用意していますから、安心してうつぶせで治療を受けることができます。 またカルシウムやビタミンDの不足や吸収が悪い為に、それらの栄養補給ができず、骨の代謝が妨げられる骨軟化症による腰痛の方も来院されます。
妊娠黄体から分泌されるホルモンのリラキシンは分娩時に靭帯を弛緩させます。分娩後8時間ほど経つとリラキシンの分泌量は低下し、その間の骨盤の傾きや骨盤が開いた状態があると、何らかの対策を講じないとその状態が永続的に続くことになります。産後から腰の具合が悪い方などはこのような原因によるものが多いのです。
椎間板ヘルニア、椎間板変性、脊柱間狭窄症などについて
1980年頃より実用化されるようになったMRI診断装置。この画像に基づく椎間板ヘルニアの診断では、逆に頭を抱える医師も多かったのではないでしょうか。というのも巨大なヘルニアが突出している画像の患者さんが痛みを全く感じず、逆にヘルニアといっても僅かな膨らみの軽微な突出の画像の患者さんが激烈な痛みを腰部や下肢に訴えるケースが多くあったからです。
それを裏付ける研究報告をご紹介します。「腰痛のない健康な人の76%に、椎間板ヘルニアが発見」また、「腰痛のない健康な人の85%に、椎間板変性が発見」 (Boos N.et al:Spine.1995) 重度の神経根圧追がみられる椎間板ヘルニアにも、全く症状の現れないものがあることが多く確認されています。
椎間板変性も直ちに腰痛の原因であるかというとこれも違うことが明らかになってきました。 「3歳〜10歳で椎間板への血液供給量が減少し始めるとともに軟骨終板にも亀裂が認められ、11歳〜16歳では繊維輪の亀裂や断裂といった椎間板構造の崩壊がみられた。」 (Boos N.et al:Spine.2002)
つまり腰痛の覚えのない方が整形外科で診察を受けると、多くの方が椎間板ヘルニアや椎間板変性と診断されてしまうのです。
「大きなヘルニアで痛くないと言っている患者も多く見られるし、逆にヘルニアを判断してよいのか疑わしいような非常に軽微な椎間板突出でも強い痛みを訴えていることがある。このことはヘルニアの大きさが痛みの強さに直接は関係しておらず、筆者らの研究によると、圧迫だけでは痛みは誘発されず、圧迫そのものが痛みの原因になってはいないことを示唆する。 椎間板に圧迫に伴う神経周囲の炎症、圧迫部周辺に遊離されたケミカルメディエーター等によって誘発されることが判ってきた。」(痛みのケア 熊澤孝朗)
最初に仙腸関節(骨盤部)のトラブルのところで、母の腰痛のことを書きましたが、私が母を治療して以来年経ちますが、その後、ぎっくり腰や腰痛の症状は現れていません。しかし、骨盤の歪みと腰痛は関連がないという報告もあります。私たちカイロプラクターは、腰痛を訴える多くの患者さんを腰部や骨盤部の施術で改善されるのを毎日目の当たりにしています。だから初めてそのような報告を知ったときは正直驚きました。
「Levangie PK「Spine」(1999)発表によると、健常者138名と、発症後1年以内の腰痛患者144名を対象に、骨盤の歪みを示す次の4項目について、測定し、腰痛との関連を調査しました。1.立位と座位での両PSISの傾き 2.立位での両ASISの傾き 3.ASISからPSISまでの距離 4.下肢長差を厳密に測定し、腰痛との関連を調査した。結果、 骨盤の非対称性と腰痛とは、どのような臨床的意義においても関連がない。という内容でした。
確かに、視診や触診で歪みが確認出来ても、報告どおりに腰痛を訴えない患者さんもおられます。しかし、人間はいつも静止している訳ではありません。
当院では、骨盤の歪みがこれらの視診や触診で明らかになると、次に「正常な関節運動」つまり「関節の遊び(joint play)」を調べる動態触診(モーションパルペーション)の検査や筋力テスト、神経学テストを行います。
検査のプロセスとして、視診や計測は、幾つもある検査法の一つにしかすぎないのです。他の複数の検査結果を照らし合わせ骨盤の障害を特定していきます。
なかでも動態触診(モーションパルペーション)は特に大切な検査法です。「関節の遊び」が正常ですと、筋肉は自由に動くことが出来ます。日常生活で支障なく体を動かせるのは、関節に少し融通がきくようにできているからなのです。一方、これとは反対に異常な関節の動きとして、ぐらぐらした大きすぎる動き(可動性亢進)や、かたい制限された動き(可動性減少)、遊びの消失(loss of joint play)など関節の機能障害(joint dysfunction)が存在すると、筋力が抑制されたり、動作の際に痛みを感じたり、特定の部位にこわばった感じなど、身体になんらかの不調を覚えるようになります。
このような関節の機能障害は毎日の施術のなかで多くみられます。関節が安定していないと、筋そのものに異常がなくても筋力は正常に入らないものです。今は自覚症状が無くても、筋力が抑制された状態で反復した作業を長く続けると、いずれ痛みが出現することも考えられます。筋力テストで異常が確認されると、更に神経伝達には問題がないか反射や感覚などを精査していきます。
急性の症状が消失したあとも、月に一度、「定期整備」と称して来院される患者さんが多いのは、このようなチェックを受けることで、姿勢の管理や痛みを未然に防ぐことができるからです。
椎間板ヘルニア、椎間板変性、脊柱間狭窄症と診断された方のなかには、骨盤の歪みが確認でき、動態触診や神経学検査、整形学検査、筋力テストの結果、陽性反応が出現するケースが多くみられます。
診断された患部以外のところで、疼痛を誘発する問題があれば、更に痛みが増幅されることも考えられます。(勿論、先ほどの報告通りに患部が痛みの原因ではないこともあります)
当院では、患部以外にも、このような痛みが増幅されたと考えられる部位の施術を行うことで、例えば脊柱間狭窄症と診断された方でも下肢の症状が緩和されることが多いのです。
記述と関連する研究報告 (腰痛治療の最前線レポートより-TMS-)
頚部痛と腰痛に対する牽引に関する7件のRCT(ランダム化比較試験)をレビュー(批判的に吟味)した結果、どの研究からも牽引の有効性は認められなかった。腰痛や坐骨神経痛に牽引が有効だという証拠は今のところ存在しない。
http://1.usa.gov/qeOuDX
腰のX線撮影による放射線被曝量は、胸の写真に換算すると150回分に相当し、4方向から撮影した場合、卵巣への被曝量は6年〜98年間毎日、胸の写真を撮った被曝量に匹敵。
http://t.co/TmcKoiUV http://t.co/1D9unR23#kenkou
椎間板ヘルニア患者を対象に、CT、脊髄造影、椎間板造影、ミエロCT、ディスコCT、MRIの診断精度を比較した結果、最も高いのはMRIで最も低いのは椎間板造影だった。
http://1.usa.gov/kv9ISH http://1.usa.gov/jlyHsd
腰痛経験もなくX線所見も異常のないボランティア受刑者50名を対象に、腰部椎間板造影を行なったところ、全例に異常所見が確認された。重大な合併症の危険を冒してまで、侵襲的な椎間板造影を行なうメリットはどこにあるのか?
http://1.usa.gov/iUPQWz
画像検査は腰痛疾患に役立たないことが証明されたわけです。
5つの異なる職種の男性149名を対象に、1年間にわたってMRIで腰部を観察した結果、椎間板変性と腰痛との関連はない、職種による異常検出率に差はない、調査期間中に13名が腰痛を発症したがMRI所見に変化はないことが判明。
http://1.usa.gov/kx1dpn
腰痛患者200名と健常者200名のX線写真を比較した研究によると、両群間に変形性脊椎症、骨粗鬆症、椎体圧迫骨折などの異常検出率に差は認められなかった。したがって老化による解剖学的変化が腰痛の原因とは考えられないと結論。
http://1.usa.gov/jb0ly3
港湾労働就職希望者208名、急性腰痛を発症した港湾労働者207名、6ヶ月以上続いている慢性腰痛患者200名を対象に、腰部のX線写真の異常検出率を比較した結果、3群間の加齢による異常検出率に差は認められなかった。
http://1.usa.gov/jVFqUC
腰痛患者378名と健常者217名の腰部X線写真を比較した研究でも、両群間における変形性脊椎症の検出率に差はなく、加齢と共に増加する傾向が見られることから、変形は正常な老化現象にすぎず、腰痛の原因とは考えられないと結論。
http://1.usa.gov/msMFAV
急性腰痛患者186例を対象としたRCTによると、安静臥床群、ストレッチ群、日常生活群のうち、最も早く回復したのは日常生活群で、最も回復が遅かったのは安静臥床群だった。腰痛に安静第一は間違い。むしろ回復を妨げる。
http://1.usa.gov/mOolz9
次の危険信号のどれかが存在する場合はがんや感染症の除外のために単純X線撮影とFBC(全血球数測定)やESR(赤血球沈降速度)を併用する。がんや感染症の病歴・37.8℃超の発熱・薬物注射乱用・長期ステロイド使用・安静臥床で悪化・原因不明の体重減少(C)。
http://1.usa.gov/uhlYSO
【腰痛治療の新常識1】
従来の腰痛概念に重大な転機が訪れたのは、アメリカ医療政策研究局(AHCPR)が1984年〜1992年までに発表された急性腰痛に関する論文の体系的レビューを実施し、『成人の急性腰痛診療ガイドライン』を発表した1994年のことです。
http://1.usa.gov/uhlYSO?
【腰痛治療の新常識2】