上記同じ内容のテキストバージョンです。
京都南カイロプラクティック研究所は、1988 年の開設以来、延べ約10 万人の治療実績があります。また、
『文藝春秋』での執筆などマスコミへの協力をはじめ、
幼稚園や小学校での教育講演や、専門家への手技療法のセミナーなど、生体力学に基づいた健康管理についての講演依頼も多く、精力的にご活躍中です。
実は、杏林予防医学研究所の建物から徒歩2〜3分と、まさに目と鼻の先にあるカイロプラクティックの治療室です。
―現在のお仕事を始められた経緯などを教えて下さい。
学生時代、私の母親は年に数回ギックリ腰を患い、
苦しんでいました。その度に歩行困難な状態が続くので、私は母親の脇を抱えて病院へ付き添っていました。
ところが、寝返りをするのも困難な強い疼痛が治まらないため、他の病院にもいくつも回りました。しかし、診察する医師はみんな「骨には異常ありません」と口を揃え、考えられる原因についての説明はなく、湿布をもらうだけでした。仕方なく、評判のいい治療院を探し、鍼灸や整骨の治療院にも通い始めました。その中で、次第に手技療法の奥深さを知ることになり、治療の世界に関心を抱くようになっていったんです。
カイロプラクティックを学び始めてすぐに驚いたのは、母の足の長さをうつぶせの状態で見ると、左右で3〜4センチもの違いがあり、骨盤も目で見てわかるほど歪んでいたことでした。当時はまだ素人ながらも、「これでは腰が痛くなるのも当然だ!」と思ったことを今でも覚えています。
患者さんの症状とか訴えの原因を考えるときに、望遠鏡を覗くような狭い視野で診察すると、周りのことが全く見えていないので怖いものです。患者さんを診る上で、視野を広げるための研鑽がいかに大切であるか、常に謙虚な姿勢を失わないことがいかに大切であるかを、母の腰痛体験を通じて痛感しました。
―カイロプラクティックという言葉自体はよく見聞きしますが、具体的にはどのような治療法ですか?
まず、カイロプラクティックの考え方のひとつに、「構造」「栄養・生化学」「精神」の3つのバランスがとれていることによって健康が維持・増進できる、というものがあります。この3要素を、私たちは「カイロプラクティック・トライアングル」と呼んでいます。多くの病気は、このトライアングルのバランスが崩れた結果であり、逆に、三角形の一辺一辺が充実していることで健康が維持されているともいえます。
例えば、こむらがえりがよく起こるという患者さんがいたとします。患者さんのふくらはぎを触診すると、確かに筋緊張が確認できるケースがほとんどです。しかし、生体力学的(構造的)な見地から原因を調べると、実はふくらはぎではなく、足関節部や腰椎、骨盤部の関節などの機能障害に起因しているケースが、臨床では多くみられるんですよ。
構造的な問題がこむらがえりの原因だと特定できれば、その該当部位を施術すると、ふくらはぎに触れることなく、すぐに筋緊張が消失するんです。
ふくらはぎ以外にも背中や肩、腕など全身の筋肉が緊張し、体のどこを触れても硬くなっている…というような患者さんも少なくありません。このような患者さんを、「体質や遺伝だから硬いんだ」と、治療家が勝手に決めつけてはいけません。構造的な問題に原因を求めても、症状との関連が考えられない場合は、他のトライアングルの一辺である「栄養・生化学」や「精神」の面から原因を考えることが大切になってきます。
アンバランスな食生活や胃酸などの消化酵素の不足などが原因で、血中カルシウムの濃度が減少すると、カルシウムが骨から出てくる「脱灰」が起こり、筋肉細胞に蓄積されたカルシウムが筋肉を緊張した状態にすることがあります。これが、訴えの多い「肩こり」や「腰痛症」の原因のひとつとして考えられることも、実は多いんですよ。
―そこでいよいよ「山田式」の登場ですね?
分子整合医学に基づいた山田先生の理論によると、カルシウムとマグネシウムの比率を1:1でとるのが理想とされています。マグネシウムは組織に沈着したカルシウムを除去する、天然のカルシウム拮抗剤の役割をするからですよね。
実際、マグネシウムのサプリメントをとっている患者さんは、硬くなっていた全身の筋肉が、徐々に柔らかくなっていくのが分かります。頻繁に起こっていたこむらがえりも、「嘘のようになくなった」と喜ばれます。このような改善例は、症状が出現するメカニズムや理由を細胞レベルで考えると、簡単に理解できるようになります。
単純に筋肉が硬いという状態でも、トライアングルの「精神」の面から、交感神経の緊張が続いて血流が悪化することで起きている場合もありますし、「栄養・生化学」の面では先ほどの「脱灰」が関係していることもあります。このように原因が異なると、治療のアプローチは全く違ってくるんですよ。
「脱灰」が疑われる患者さんに、いくら湿布やマッサージなどを繰り返してもよくなりません。それなのに、例えば肉離れを繰り返し起こすスポーツ選手に対して、適切でないアプローチを続けたまま「硬い筋肉は体質だ」などと決めつけていては、この選手は本当に気の毒ですよね。しかし残念ながら、そういう臨床家がまだまだ多いのも現状です。
そういう方々には、是非とも分子整合医学の理論についても勉強されることをお勧めします。患者さんの訴えを細胞レベルからも捉えられる臨床家が多く誕生すれば、「精神」や「栄養・生化学」の問題で苦しんでいる患者さんにとっては素晴らしいことですから。
―山田所長との出会いはずいぶん昔とお聞きしています
20 年くらい前でしょうか。サプリメントを勧めてくれた友人に紹介されたのがきっかけです。杏林予防医学研究所のオフィスに伺うと、あの山田先生からいきなりマンツーマンで説明を受けましたから、それはたいへんな迫力でしたよ(笑)! ちょうどその頃の1991 年3月から、現在に至るまで、『予防医学ニュース』もずっと読み続けています。
以前、日本カイロプラクティックアカデミー(NCA)で講師をしていた私は、仲間にも「山田式」を学んで欲しいと考え、1995 年の6月に、研修会の開催を杏林予防医学研究所にお願いしました。山田先生にはその後、NCA西日本本部の研修会の講師として何度もお越し頂き、大変貴重なお話を伺うことができました。
―女性スタッフの皆さんも明るく元気で、いつもテキパキと仕事をされていますね。そういえば、以前は喘息持ちだった方がいらっしゃるとか?
常勤スタッフの一人は幼い頃から喘息を患っていました。小学1年生のときに気管支喘息と診断されて、そのときから中学を卒業するまで毎日、朝・晩に錠剤の薬を飲んでいたそうです。調子の悪いときは、いつも飲んでいる薬に加え、もう少し強い薬をプラスして飲んだり、発作が出たときは病院で吸入をしたりしていたらしいんですが、その度に心臓がドキドキして手が震えたりするので、咳は止まってもすごくしんどかったようです。
高校生になってからは、毎日ではなくなったものの、飲み薬の他に気管支拡張剤のシールを処方されることもあったみたいですが、このシールも心臓がドキドキするのが嫌で、バッグの中にはいつも吸入器を持ち歩いていたと言っていました。
―今はすっかりお元気そうですね。「トライアングル」の改善を実践されたんでしょうか?
この治療室で働き始めた頃、「アレルギーは数ヶ月で治る」などと書かれた本がいっぱい並んでいて、かなり驚いていたみたいです。なかでも、私がよく患者さんに渡していたアラキドン酸カスケードのチャートに興味を持った彼女は、「α‐リノレン酸とリノール酸は、体の中に入ってからエレベーターの上りと下りほどの差があるんだぁ!」と感心していました。
その後、分子整合医学への興味がどんどんわいてきて、山田先生の著書や『予防医学ニュース』を読み始めました。午前の治療が終わると、杏林予防医学研究所で午後から行われている山田先生の講演会に、ダッシュで飛び込んだこともありましたね(笑)。いつも驚くような内容で衝撃の連続だと言っていますが、山田先生の著書にも記されている“We are what we eat”と「生体利用性」についてのお話は、特に強く印象に残っているようです。
知識はどんどん増えていったので、後は実践あるのみでした。最初は腸内環境の改善を目指してファスティングを行い、乳酸菌のサプリメントもとっていました。食事はマゴワヤサシイを基本にして、不
足するかもしれない栄養素は総合ビタミンミネラルのサプリメントで補うようにしていました。彼女のような症状には脂肪酸のバランスも大切なので、α‐リノレン酸とリノール酸が1:1になる食生活を目標に、亜麻仁油も欠かさないようにしていましたね。
すると、勤務して数年経った頃には、いつの間にか喘息のことは全く忘れていたというんです。思い出したのは、本人いわく「治療室にあった大きな業務用コピー機を処分した際に、その跡形が残ったホコリだらけの部屋を掃除していたとき」。以前ならすぐにホコリに反応して咳が止まらなかったのに、マスクもせずに淡々と掃除を終えた後で、「あれっ!?
そういえば…」と気付いて、自分でビックリしてましたよ(笑)。
あとは、患者さんに「肌がきれいになったね」とよく言われるようになって、本人も喜んでいるみたいです。体の内側からよくなると、自然とお肌にも現れるんですね。肌荒れや湿疹など肌のトラブルの多くが、「栄養・生化学」の面、特に必須脂肪酸と大きく関連していることを、彼女の実体験を通じて、私を含めたスタッフ全員が再確認できました。
―では最後に、読者の皆さんにメッセージを
長年多くの患者さんに接していると、「食事は注意していますから大丈夫ですよ」とおっしゃる方は少なくありません。しかし、「食事の際に胃液などの消化酵素が十分に分泌されないため、栄養素をきちんと吸収できていない方は多いようです」とお話しすると、一様に驚かれます。
実際、海外の報告などをみていても、胃液不足の方は相当多いようです。日本でも同様の傾向が認められ、吸収不全が疑われる毛髪分析のデータは、当治療室でも多くみられるんですよ。
「栄養・生化学」の面から栄養素を吸収しやすくするためには、市販の胃腸薬などに頼らず、一口食物を運ぶごとに数十回噛むといいでしょう。玄米を主食にすると、自然と噛む回数が増えていいですね。また調理方法に工夫を加えるのもよい方法です。例えば、下ごしらえでさっとゆがいたりすると、野菜などは細胞壁がもろくなって中の栄養素が吸収されやすくなります。加えて、農薬やダイオキシン、硝酸塩などの有害物質が落ちやすくなることから、デトックス効果も期待でき、よく噛むことのメリットと同様に一石二鳥でオススメです。
最後に、手軽にできる健康法として「ラジオ体操」を実践してみて下さい。「構造」の面から消化を助けてくれるはずです。これは、肋骨の関節運動が少ないと、腹部臓器を伴った横隔膜の上下運動が制限されるからです。実は、このような関節運動の可動性の制限がある場合の改善策として最も適した運動が、誰もが一度は経験したことのあるラジオ体操なんです。私が日頃から効能を広く説明していたこともあってか、文藝春秋からラジオ体操についての執筆依頼があり、書き下ろしたくらいです。よく噛むこととラジオ体操はお金もかかりませんから(笑)、ぜひ皆さんにオススメします!
―お忙しいところ、ご協力ありがとうございました!
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